100個以上のセンサーが、リアルな事故をデータにする。
おもちゃの箱の中も、筆箱の中も。子どもの頃の私の持ち物で、買ったときの形を保ったままのものなど、ほとんどありませんでした。ボールペンひとつだって、分解せずにはいられない。それをまた完璧に組み立て直してみせるのが、私にとって最大の遊びでした。大学へ入り、ゼロからラジオをつくる実習があったときは本当に楽しかった。その気持ちのまま、緻密さと正確さを求められる世界で仕事に就きました。
現在は製品試験に使用する、ダミー人形のメンテナンスを担当しています。試験の際、車体に乗せられる白い人形。もちろんただ飾りで乗せているのではありません。実はかなり本物の人間に近い形でつくられています。子どもの人形だけでも、年齢違いで2種類。大人のものは男女が別で、大きいと100kgを超える体系のものも。人形には多い場合で100以上のセンサーがついており、事故の際に前後・左右・上下、3方向のどこから、どれくらいの重力がかかったのか、正確にデータを取ることができます。単に衝撃を軽減して命を守ろうとするだけでなく、どこを守ればケガや後遺症を防げるかまで計算する。オートリブがこだわる、安全性への真摯な姿勢です。
愛着のある人形だからこそ、「これが人間だったら」と考える。
「ダミー人形はこわくありませんか?」と聞かれることがよくあります。白くて顔がないからでしょうか。でも、私は全くこわくありません。それどころか、かわいいと思うことすらあるほどです。私には小学生の子どもがいるのですが、学校に行く前、 毎朝身だしなみをチェックします。顔を洗わせ、清潔な服を着せて、家を出る際には口の周りが汚れていないか見る。ダミー人形と接するときも、感覚は同じです。センサーの動きをチェックしたり、傷ついた箇所を直したり。破れた服を取り替えて、また試験場に送り出すのです。
愛着のある人形だからこそ、試験で人形の首が取れたり胸が潰れていたりするのを見ると気が引き締まります。この人形の損傷が、もし人間だったら。試験で人形が傷つく場所が、本当の事故でも人間が傷つく場所。そのたび、人形のメンテナンスの重要性を感じます。ダメージを正確に表す人形だからこそ、正確なデータが取れる。よりよい製品づくりに活かされる。そう信じて、私はいつも車に乗る人形たちと向き合い続けるのです。